後期授業が始まっている。夏休みが終わり、ひぐらしが鳴かなくなったと思ったら、今度は音のデッド・スペースを埋めるように学生がおいおい泣き出すというのがお決まりである。しかし、夏休みが終わるなんて毎年のことなのに、そのなき声の遷移は練習初日のバトンパスのようにぎこちない。季節はとうに変わったのに、まだ夏が続くと信じる者の多さよ。夏を終わらせる心の準備ができている学生などいないということか。
そんなことを思っていたら、季節の変わり目のせいか、数日前に体調を崩してしまった。実はもうほとんど治っているのだが、病み上がり特有の「ここで下手に部屋から出てぶり返しでもしたら、闘病の日々がすべて無駄になってしまうし、今日は出歩かないのが得策だ。」といった甘ったれた理屈を捨てきれず、悲しいことに4限に行く気がまったく起きなかった。ちなみに午前も休んでしまった。しかし、こんな日でも、ベッドでギターをつま弾いたり、漫画を読んだりはできる。だから、脳が活動を停止した、というよりは、理性を司る左脳が右脳になって、もはや脳全体が右脳、みたいな状態であった。
部屋でぐうたらしているうちに、4限開始時刻の15時を過ぎた。昼飯は食後のアイスまでしっかり食べたはずなのに、ぐぅ、と腹が鳴った。大学に行かなくても腹は減るんだな、という失恋して歩き疲れた後みたいな一言をつぶやいた。しょうがないから何か食べよう。ジャンクなものを食べるのはなんだか気後れしたので、お味噌汁を作って飲むことにしよう。火曜4限は「微分積分学続論Ⅱ―微分方程式」じゃなくて、本当は「食育学Ⅱ」なんだ、と思い込むことで、この日はなんとか心の安寧を守ったのだった。