私は川の護岸に座って、ぼうっと一点を眺めている。じっと前を見据える鷺の輪郭が、一歩一歩川の中を進んでいく。死ぬのは案外、こんな瞬間なのかもしれない。
昼間はとても暖かい陽の光が差していた。汚れることなど微塵も厭わずに草むらに寝っ転がって、気の置けない人たちと頭の悪い会話をしていた。夜になって、みな名残惜しそうに家路に着いた。自転車は歩道に停めたせいで撤去されてしまったから、歩いて寮に帰った。明日三条千本まで取りに行かなければいけない。
今日の寮で安心して眠りにつくことを、私は何故か拒んでしまった。他者が同じ空間で生きていること、彼らの視線や感情が私にも向くことに苛立った。昼間はその事実が本当に心地良かったのに。どこにいることも出来ず、耐えかねて私は、ゾンビのようなわざとらしい歩き方で川辺までやってきてしまった。
街灯の光が水面にギラギラ反射している。先のこと先のことを考えながら時間を過ごすことに疲れてしまった。しかしそれは義務であって、投げ出すことなどできない。限界、の二文字が頭に浮かぶとすぐに、しょうもない、と誰かがぼやいた。昼に会った友人は、金欠で毎日色んなものを切り詰めて生活しているらしい。彼が良い暮らしをするためなら、私の持てるものなどいくら犠牲になろうと構わないのに。実のところは、唇を曲げ何度も頷きながら、彼の背中をさするくらいしかしていない。
私の愛する人はこんな時間でも起きているらしく、連絡をよこしてきた。私は携帯の画面を力任せにタップしながら、意味もなく相手のことを労い、褒める。「自分のことも褒めてね、人は自分のことをたまに褒め忘れちゃうから」と返されて、「とけたい」と私は言った。
寒い。異様なまでに。誰かに一晩だけ、この身を預ける場所を貸して欲しくなった。一晩だけ、この心を預かって欲しかった。しかしそれはその「誰か」の眠り、世のあらゆる束縛から解かれる短くも幸福な時間を奪ってまで満たされるべき欲求ではない。
いつしか鷺はどこかに消え去ってしまった。もう二時だ。私はまだ、立ち上がれない。