今年の三展(豆板醤)

季刊C12 vol.3

 自分からは、今年訪れた美術館・博物館の展覧会の中で特に印象的だったものを3つ選んで、「今年の三展」として紹介したいと思う。

  1. 「没後50年 福田平八郎」展 4/30 大阪中之島美術館

 この展覧会が開かれるまでは存在すら知らなかった近代の日本画家・福田平八郎の特別展。日本画の枠組みに囚われない自由で新鮮な色彩表現と物体描写によって構成された画面からは今でも古さを感じさせない、モダンにデザインされた素朴な自然景の美しさを目にすることができる。モチーフに肉薄した徹底的な観察と膨大な量の精緻な写生を通じて平八郎が得ていった独自の表現が、その画業の中で段々と確立していく過程を作品を通して追っていけるのも面白い。同時期に中之島美術館で開催されていた「モネ 連作の情景」展でも感じたことだが、一見デフォルメされたような単純そうな絵も、驚くほど写実的で緻密な絵を描ける土台や観察眼があって初めて成せるものなのだと教えてくれるような作品群だった。印象的だった作品は《花菖蒲》、《青柿》、《竹》など。

  1. 「広重 ―摺の極―」展 7/16 あべのハルカス美術館

 言わずと知れた浮世絵師、歌川広重の特別展。浮世絵が他の絵画作品と異なるのはひとつの版木から何枚も刷ることができるというところだが、版木も徐々に摩耗してくるため初めの方に刷った作品の方が細部まで鮮やかに色が乗っていたり、逆に少し後の方になると薄っすらと木目が写っていたりして木版ならではの鑑賞の仕方があるというのが楽しかった。プルシャンブル―と呼ばれる鮮やかな藍色を使ったグラデーションがもう綺麗で綺麗で、まさに見飽きることのない名品揃いの展覧会だった。中でも印象的な作品は木曾街道六拾九次の《洗馬》で、哀愁漂う寒村のしっぽりとした夕暮れの情景描写と心象表現が見事という他ない。浮世絵ではアクロバティックな構図や戯画的なユーモラスさなどが取り沙汰されることが多いイメージがあったので、こういう繊細で味わい深い作品も見ることができて自分の中の浮世絵観が大きく変わった感じがした。

  1. 「超・日本刀入門 REVIVE」展 8/22 静嘉堂文庫美術館

 帰省のついでに行くことができた東京での展覧会。静嘉堂文庫所蔵の稲葉天目(世界に3点しか現存しないとされる曜変天目のうちのひとつ)が出展するということで意気揚々と見に行った。展覧会名の通り多くの来場者は刀剣が目当てのようだったので、曜変天目の展示は考えられないくらい空いていてじっくりと観ることができた。見込み(茶碗の内側の窪みの部分)に点在する、見る角度によって七色に変化する構造色の模様が幻想的で文字通り見入ってしまった。室町時代から「無上」と称えられてきたのも納得の名品。他にも鎌倉期の十二神将像が展示されていて、十二支の動物になぞらえた個性的でかわいい仏像なども見ることができ、かなり満足感の高い展覧会だった。

 以上3つの展覧会を紹介した。レポートみたいな少し堅苦しい内容になってしまったが、展覧会自体はもっと敷居の低いもの(自分も疲れたときはよく展示室の椅子で寝たりしている)なのでぜひ機会があれば行ってみてほしい。小説や音楽と違って会期が終わると当分見れなく作品も多いので、気軽に良かったら見てみて下さいとは言えないのが難点だが、今回紹介した作品や画家に興味を持ってもらえるきっかけになれば嬉しい限りだ。大阪東洋陶磁美術館の「シン・東洋陶磁」展も天目茶碗や青磁の優品が揃った素晴らしい展覧会で、広重とどちらを入れるか悩んだが、内容のバランスを考えてこのようにした。2025年も少しでも多くの作品を自分の眼で見れるようにいろんな博物館や美術館、寺院に足を運んでみようと思う。

おまけの三選。

今年の三寺。薬師寺(奈良)、広隆寺(京都)、神護寺(京都)。

今年の三仏。阿弥陀如来坐像(平等院鳳凰堂)、十一面観音立像(向源寺)、十二神将像(広隆寺)

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