2024年に公開されたものと、個人的に2024年に見たものとで分けて、計6本を紹介させてください。がっつりネタバレを含む部分もあるので、苦手な方は薄目で!最後だけでも見てって!!
◎2024年に公開された映画三選
- 『劇場版 ほんとうにあった怖い話〜変な間取り〜』
何だこれと思った方、待ってくれ〜〜。冗談抜きで今年公開されたJホラーの中で群を抜いて怖かったのがこの作品。
いつもならスルーしてしまいそうな映画だったが、好きなお笑いコンビであるマユリカの坂本さんが出演されるということで出町座で鑑賞した。
構成としては3本の短編が連なったオムニバス形式の作品で、それぞれが同じ家にまつわる話になっていて、3本目のモキュメンタリーの短編でそれらが一つに繋がる。
1本目は姉妹が旅行で民泊に泊まる、その時回していたカメラの映像(という設定)。カメラを通したPOV(主観ショット)で続いていく一連の流れの中で、妹の様子が段々おかしくなっていく…。3本中これが一番怖かった。
2本目は一風変わって劇映画テイスト。妻を亡くした男が生成AIを妻に見立てて生活するというイマドキの話。男が狂っていく過程と娘に見立てた人形が不気味すぎる。
3本目はモキュメンタリー。1本目と2本目で舞台になっていた家の真相を暴こうとする怪談系Youtuberの主人公のグループの話。これも全編POVだったが、モキュメンタリー系POVの怖さの本質は「一番先を歩かされること」かもしれないなと感じた。当たり前だが、カメラを携えている人よりもカメラの方が前にあるわけで、誰よりも先に怪異に相対しなければならない。後半の展開には思わず目を背けたくなった。
クソデカ欠点をあげるとすると最近よく聞く「変な〇〇」シリーズの一つなのかなと思って敬遠していたが、ただただそのブームに乗っかっただけで関係無いらしくプロモーションが下手だなと。ただ、この寺西涼監督はこれからのJホラーを担う存在になりそうでとてもワクワクします!
- 『憐れみの3章』
ヨルゴス・ランティモス監督作(なんて?)。今年は他にも『哀れなるものたち』が公開されていてとても話題になっていたので紹介の意味を込めてこっちをチョイスしました。
構成としては先ほどと同様、3本の短編からなるオムニバス形式(オムニバスって否が応でも緩急が付くのでだれずに見ることができて良いよね)。加えて、各短編で役者が変わらず、異なる登場人物を全く同じ人が演じる、という珍しい形をとっていた(これは古代ギリシャの悲劇でよく行われていたものらしい、ヨルゴス・ランティモスはギリシャ出身)。1本目は、人生における全ての選択を会社の上司に決められていた男が殺人を命じられ、そこから抜け出すが…という話。2本目は、海難事故で亡くなったと思っていた妻がある日救助され帰ってきたが、自分の好きな曲も知らず、嫌いなチョコレートを食べていて、足のサイズも違う。そこから妻が妻であると信じられなくなる男の話。3本目は、死んだ人間を復活させることができる特別な人間を探す宗教団体に所属する主人公が教団の禁忌に触れて…という話。
3つの短編で一貫して「支配したい・されたい」「信頼したい・されたい」「信仰したい・されたい」という人間だけが持つ双方向的で複雑な感情が描かれている。『哀れなるものたち』や『ロブスター』など他にも様々な作品で、しきりに人間と動物の違いについて描いていると個人的には感じていて、本作でもそれが感じられた。随所にブラックユーモアが散りばめられていてとても笑えた(多分ジャンル分けするならコメディになる…のか…?)。3編通して唯一「R.M.F」という男が出てくる。1本目の最初と3本目の最後でその男が出てきて物語の世界が環状に閉じられるがそれがどういう意味を持つのかいまいち納得いく解釈が思いつかない。仰々しい意味は無く、3つの世界は繋がってますよ、ということかもしれない。とりあえず『ロブスター』を見て楽しめる人には太鼓判を押しておすすめできる作品!
- 『エイリアン・ロムルス』
1979年に始まった「エイリアン」シリーズの最新作。今作は『エイリアン』と『エイリアン2』の間の話。「エイリアン」シリーズと言えばシリーズを経るごとに屈強になっていく主人公のリプリーが有名だが、今回は出てこない。1や2へのリスペクトを感じる箇所と、令和の技術を伴った演出がバチバチにはまっていて見ててとても楽しかった。無音になる場面ではつい息を殺して見入ってしまった。ただ導入の主人公たちの説明(所属や力関係)などは正直もっと簡潔にして頭から「エイリアン」を浴びたかった。シリーズ未視聴でも十分楽しめる傑作!
という感じで色んなジャンルの作品をチョイスしてみました!他にもたっくさんのグッド映画を映画館で浴びれて幸せでした。付き合ってくれた皆さんありがとう、来年もお願いします。
◎2024年に個人的に見た映画三選
- 『浮き雲』
アキ・カウリスマキ監督作(なんて?)。
最新作の『枯れ葉』の公開記念で出町座でアキ・カウリスマキ監督特集をやっていた時に鑑賞(だったはず)。
この監督の作品にはいつも哀愁が漂っていて空は大体くもり。『浮き雲』も例に漏れず、レストラン勤務の妻とバスドライバーの夫が同じタイミングで失業してしまうところから始まる。ただ、どんなに経済的に貧しく精神的に苦しい状況でも身だしなみを整えて、タバコやコーヒー、お酒、音楽、映画などの奢侈品を”誰か”と嗜み楽しむということを忘れない2人の姿に心が動かされた。
そうした人間的な営みの中で、快-不快の回路が自分だけで閉じず、他者との関わり合いの中で生きていくことに誇りを感じた。また、そうありたいと思えた映画。
- 『偶然と想像』
濱口竜介監督作。これもまた濱口監督特集を出町座でやっていてやっと見れた作品。そしてこれも偶然「再会」する人たちを描いたオムニバス形式の作品。(オムニバス好きなのかも)
本筋には関係しないセリフや、何気なく挟まる風景や室内のカットで登場人物のバックグラウンドを鮮明に色付けしていくような、登場人物の実在性がぐっと増すような感覚がたまらなく好き。過去は詳しく描かれず、回想なども無い。だからこそ過去に何があったのか、未来で何が起こるのかの想像しろがある。
濱口監督の作品では(少なくとも自分が見たもの全て)車中での会話シーンがあるが、この『偶然と想像』でも1本目にタクシーの中で会話するシーンが出てくる。車という外から隔離され狭く閉塞感のある空間での会話は、どこか緊張感とも似つかない不思議な空気を纏っていて、とても引き込まれる。
- 『殺人に関する短いフィルム』『愛に関する短いフィルム』
クシシュトフ・キェシロフスキ監督作(なんて?)。
アップリンクで見た『チネチッタで会いましょう』の中で、この作品が触れられていて前にも名前をどこかで見たことがあったのでBlu-rayを買って鑑賞(ちなみに『チネチッタで会いましょう』もとっても面白かった)。
十戒をテーマに作られた『デカローグ』というドラマの4話と5話(正確ではない)を長編映画化した2作。
『殺人に関する短いフィルム』は、全編通して黄味がかったフィルターで撮られ、世の中の醜さだったり歪さだったりを強調して撮られているように思う。この作品には主に3人の登場人物が出てきて、2回の殺人が起こる。1人目はタクシードライバーのおじさんで、意地悪をして乗客を乗せなかったり、ひどい運転マナーだったりするが、愛妻家であり、その妻が作ったお弁当のサンドイッチを野良犬にあげるという優しい一面も持ち合わせている人物。2人目は青年のヤツェク。厭世的で荒んだ町をつまらなさそうに練り歩いている。1回目の殺人はヤツェクがタクシードライバーを殺すことで起こり、ここから物語が動き出す。3人目はヤツェクを弁護する新米弁護士。
ヤツェクはタクシーを奪うために適当に乗り込む。人気のない場所までタクシーを走らせ、ドライバーの首を締める。しかし、その程度では当然死なず、それから続く7分間の長い殺人シーンを観客はまざまざと見せつけられる。ドライバーの妻に対する言葉で自分の今しでかしていることの重大さに気づいたが、もうどうにも止まることができず、せめてドライバーの表情を見ないですむように布を被せ泣きながら何度も殴るシーンは本当に目を背けたくなった。
その後、捜査や法廷での弁護のシーンなどはなく、新米弁護士が死刑になる直前のヤツェクに会う場面に移る。ヤツェクは新米弁護士に、子供の頃に亡くなった父や、最近友達に誤って轢き殺されてしまった自分の妹の話をする。そして流れ作業のように祈りを捧げる神父さんとどこかめんどくさそうな執行人たちの手によって淡々と2回目の殺人がなされる。
最初にゴキブリ→ねずみ→首を吊られた猫の死骸のカットが連続して写り、そしてその後猫は子供たちが遊びで殺したことがわかる。ラストまで見てこの最初のシーンを反芻していたが猫はヤツェクのメタファーであり、他の生命体の命を自らが生きるため以外に奪うのは人間だけであるということを表しているのだろうなと感じた。1つ目の衝動的な殺人と2つ目の機械的な殺人を通して十戒の「殺してはならない」を見ている私たちに強く訴えかける。
『愛に関する短いフィルム』は、自室の窓から向かいのアパートに住む見目麗しい女性を望遠鏡で覗く主人公と、その覗かれている女性が主な登場人物。
「覗き見する」という行為の歪さ(相手への強い欲求とそれが相手に気づかれることがないという矛盾)が登場人物の孤独をより一層強いものにし、相手への強い訴求力が発露した途端に話が動き出す。その後は行為の主体と客体、抱える愛情が入れ替わり、主人公達は深い悲しみと慈しみを感じるとともに最初のシーンへ戻るという、閉じられた物語(本当に話が綺麗にまとまっている、見終わった後「すげ〜〜」って言った)。
はじめて男が女に愛を伝えるシーンでは全く2人の顔が写らない。その後彼女が彼の抱えている愛情を誤解しているところを逆光で半分ずつ写す、この一連のカットが美しすぎる。性愛や友愛、家族愛といったさまざまな愛(名前がついていないような曖昧なものまで)がグラデーションとして2人の間に存在し、関係が変わるごとにそれが揺れ動いていく様子が丁寧に描かれている。
ドラマ版のデカローグも買ったので誰か一緒に見ましょう。
という感じで6本と言いつつ7本紹介していたり、書いている時間帯によって文体と文章量が違いすぎるけどどれも素晴らしい作品なので、見てくれた方はぜひ感想会しましょう〜〜〜!
最後に今年のM-1の準々決勝で一番面白かったとされているネタを貼って〆ます、ここまで読んでくれてありがとうございました!