「またね!」
「うん、またね!」
手を振って笑顔の彼女を見送る。
まただ。また伝えられなかった。
「今日こそは想いを伝えよう」そう思って約束を取り付けたのにまた何も言えなかった。嫌気がさす。いつもそうだ。博打を打っているように見せかけて勝てる勝負しかしたことがない。
後悔。自己嫌悪。鴨川沿いをトボトボと歩いて帰る。
風呂に入る。普段より長めにシャワーを浴びる。
布団に潜り込む。
スマホを開く。
スマホを閉じる。
スマホを開く。
スマホを閉じる。
布団を出る。
コーヒーを淹れる。
コーヒーを飲む。
布団に戻る。
またスマホを開く。
気づけばまた日が回っている。想いを自覚してから何日経った?覚悟を決めてから何日経った?
いつもはしないネットサーフィンをしてみる。
「告白 なんて言う」
「片思い 振られたら」
「彼氏持ち 告白」
「告白 勇気出る言葉 有名人」
そんな検索履歴が画面に並ぶ。中学生かよ。
「chat GPTに聞いてみるか?」自嘲的にそんな言葉を呟いてみる。
そういやこの前私が人を好きになったときには生成AIなんて言葉は誰も知らなかったよな。
「ガンバッテクダサイアナタナラデキマス!」「オウエンシテマス」「ユウキヲダシテ!」
うるさい。そんな言葉で想いを形にできたらこんなに苦労してない。
アプリを閉じてまたネットサーフィンを再開する。
「失敗しなくちゃ、成功はしないわよ」(ココ・シャネル)
時計を見る。3時半。
LINEを開く。
「言いたいことがあるので直近どこかで10分くらい時間もらえませんか」
それだけ送ってスマホを放り投げて目を瞑る。
なんでこんなしょーもない、この世の成功者が全員言ってそうな、ありきたりな”名言”で踏ん切りがついたんだ。我ながら単純な男だな。中学生かよ。
昨日とは逆向きに鴨川を歩く。
爆音で音楽を聴きながら歩く。
一人ヘドバンしながら歩く。
勝負の直前はいつもそう。
さ、待ち合わせ場所が見えてきた。昨日もここで会ったよな。